『レイジングループ』狂っているのは世界か?
人狼ゲーム、ご存知でしょうか。
今はかなり有名になったのでご存知の人も多そうですよね。
村人陣営と人狼陣営に分かれ、村人は紛れ込んだ人狼を探し出して処刑すれば勝利。人狼は村人を上手く騙して生き残り、自分たち以外を全滅させれば勝利。
簡単に言えばそういうゲームです。
人狼をモチーフとした物語もそこそこあります。
しかしおそらく、人狼を物語に落とし込むにあたっては結構な苦労を強いられるのではないでしょうか。
それは、そもそも人狼が「参加者全員がルールに忠実に従うことを前提として進行する」ゲームだからです。
人狼は自分の生死を完全に度外視して「自陣営の勝利」を目指すゲームですから。
では、実際に生きている人間が人狼ゲームを行うとしたら、どんなルール設定のうえ、どんな舞台が用意され、どんな人物たちがそれに従うことになるのか、実際の人狼とはどれほど進行が変化するのか……
そんなゲームが成立する空間には、どれほどの狂気が渦巻くことになるのか。
……『レイジングループ』は。
そんな究極の不可解に、飽くなき恐怖心でもって立ち向かう、一人の男の物語です。
さぁて……もうクリアして結構経つんですが、今更ながらの布教記事でございますですよ。
でもね、「DDLC」布教以来久々に言うんですけど、まだプレイしてないあなたはこの記事読むな。その時点でおまえは百個ぐらい間違いを犯している。
いや、ホント何も知らない方が楽しめるから!! 安いから!! まずはバイクで傷心旅行するとこから始めよ、な!!
何しろこいつは無数の「エンターテイメント」を濃縮した、確たるテキスト力と物語としての質量で殴ってくる大傑作。
伝奇、ホラー、ミステリー、ループ……そういうジャンルの良いとこ取りをしまくったゴージャス極まるテキストアドベンチャー!
そんな贅沢な時間、まるごと自分のもんにしないと損でしょう!
まぁ、それでも何もわからない状態では買おうってモチベーションにもなりにくいかもしれません。
そういった者だけが多少のネタバレを覚悟してこの記事を読み、阿鼻叫喚の宴に備えましょう。
――くれぐれも禊、物忌み、夢枕を欠かさぬよう。
さて前述したとおり、このゲーム――『レイジングループ』は人狼ゲームをモチーフとした物語です。
当然、騙し合いや疑心暗鬼が生む緊迫感のあるドラマが大きな見どころのひとつとなるわけですが、極めてボリューム満点のこのゲームではそういう部分が全体の魅力の「ほんの一部」にしか過ぎないところが大きな見どころですね。
ただ人狼のルールにしたがって物語が進行するだけではなく、そのルールそのものが生まれた土壌、背景について、主人公は(ずけずけと)切り込んでいきます。物語の上で人狼ゲームを成立させるために、ちょっと驚嘆するほど世界観が練り込まれてるんですよね。
舞台となる山村、藤良村。その下方に位置する休水集落。村に点在する石柱めいた謎のオブジェ。「申奈様」と称される神への信仰。「おおかみさま」への畏怖。「よみびと」が帰ってくるという皿永の川。
――そして、村人の中に紛れた「おおかみ」を見つけてくくる、「黄泉忌みの宴」と呼ばれる儀式。
最初この黄泉忌みの宴が始まった時、「人狼」かじっている人はめっちゃテンション上がりますからね!
「これ狼2占1霊1狩1だーーーー!!!」ってなりますからね!
そして同時に、少し困惑するかもしれません。実際の人狼ゲームとは前提が違うせいで、まったく流れがセオリーとは異なりますから。
前提とはもちろん、「誰もがルールに従うとは限らない」ってことであり、「参加者は基本的にセオリーなど知らない」、そして「誰も死にたくなどない」ってことです。
役職ごとの役割はほぼそのままでありながら、この当然の理屈が、人狼ゲームとしての流れを大きく変えていきます。
その中で生まれる疑心と信頼はまさに「人狼ゲーム」ならざる「人狼もの」ならではの楽しみと言えるでしょう。
こうして、昼に「処刑」を行い、夜は人狼によって「惨殺」されていき。宴は、到底スムーズとは言えない形で進行していきます。
しかしながら、そもそもの宴が始まる前夜。
屋外から響き渡る悲鳴に導かれた主人公は、
幽鬼のごとく村を徘徊する影――人身狼面の怪物と遭遇し、
あっけなくその命を奪われることになるのです。
――さあ、ご紹介が遅れました。
このゲームにおける最凶のジョーカー。こいつがいたからこそ、ただの人狼ゲームには終わらなかった。
謎の信仰、隣人を疑い殺し合う儀式、そして人狼の怪異が跋扈する狂気の村。
その巨大な闇の中にも、果敢に挑む者がなければ永遠に晴れることはありません。
それも、完膚なきまでに雲散霧消せんとするほどの強大な器の持ち主が――!
……ええと、彼の名は房石陽明(ふさいし はるあき)。
旅行中に道に迷って村にやってきた東京の大学院生です。
……はい、ちょっと情けない理由で巻き込まれただけの彼が主人公です。
冒頭でいきなり迷子になって休水集落に身を寄せた彼は、里帰りに来ていた女子大生――芹沢千枝実と出会い、部屋に泊めてもらったあげくコナかけたりします。
……ええ、まぁ。最初は「なんだコイツ」と思われるでしょう。
でもな、こんなんはまだ序の口だぞ。
房石に対する「なんだコイツ」なんかもう挨拶代わりだからな。100回そう思ってやっと知り合いだと思えマジで。
いいですか、いかに迷子の迷子の好青年とはいえ、この男は藤良村に根付いた伝承に喧嘩を売ろうとしている主人公なわけですから、それはもう並大抵のクズでは対抗できないんですよ。
ええそう、クソ野郎なんですよ。
神話もドン引きするレベルのクソ野郎なんですよ。
『レイジングループ』は房石陽明のクズに始まりクズに終わると言っても過言ではない。
恐ろしいことに本当に過言でもなんでもない。
明晰な頭脳とひん曲がった性根がこの男の武器です。
「そんな主人公じゃ感情移入できるかどうか心配だ……」
と思うかもしれませんが、大丈夫。
だって大怪獣バトル見てるのに感情移入とかいらないじゃん??
怪獣に建物とかぶっ壊されるのは迷惑じゃん??
でも怪獣ってかっこいいじゃん??
あなたもゲームを進めるにつれ、いつの間にか彼のことを「ちくしょうこいつ最低のドブなのにメチャクチャかっこいい」と思ってしまう痛恨極まる悔しさを味わうことでしょう。マジで痛恨だぞ。
活躍すればするほど「かっこいい」と「月までブッ飛ばしたい」の感情が同時にわきたつ主人公って何????
でもそんな妖怪房石にも唯一の天敵がいて、その人相手にうろたえまくる様は実に痛快なので楽しみにしててくれよな!
まぁそんな房石も、前述の通り冒頭でいきなり殺されちゃうわけですが。
やったぁ諸悪の根源が死んだ!
しかし、次の瞬間、彼はバイクにまたがって迷子になっていました。そして同じ轍を踏むように、彼は再び千枝実と出会い、休水集落へと足を踏み入れます。
――そう、彼は死ぬたびに物語のスタート地点に戻る、ループ世界に閉じ込められてしまうわけです。
余談ですがこの時点で「ノベルゲーム」好きとしては信頼感が増すんですよね! まぁ、タイトルからしてわかっていたことではありますが。
ノベルゲームについて語り出すとどうしても「かまいたちの夜」に行き着いてしまうわけですが、かのゲームのすごかったところは、ノベルゲームの「ループ構造」をいきなり完璧な形で構築してしまったところにあります。
詳しくは割愛しますが、ともかく「かまいたち」以後のノベルゲームの歴史は「ループもの」と共に紡がれてきたと言っても過言ではありません。
なので、ノベルゲーム好きとしてはそういう導入をされると「これは面白くなるぞ!!」と期待してしまうわけですよ!
果たして以後もその期待は裏切られることはなく、むしろ期待以上の快作ぶりを見せつけてくれたわけです。
閑話休題。
そんなわけで房石は「死に戻り」の運命に囚われます。
行動を誤り、死を何度も体験し、繰り返すほどに心が摩耗していき、ついには絶望――すればまだまともだったんだけどなァ……。
ええ、もう、オリハルコンのメンタルを持つサイコ魔界村野郎こと房石陽明は100万回やられたくらいじゃ負けないんですよ。
なぜなら、彼が挑むのは人為と神威の境界線。
「ループ」という人の身では絶対に為しえない現象。表出する「神」の存在。
しかしその超常の中で渦巻くのは、無数の「嘘」の気配。
黄泉忌みの宴という「嘘をつくゲーム」に隠されたさらなる嘘。
果たしてどこまでが嘘で、どこまでが真実か?
――房石陽明は、その境目を見つけ出すため、幾度も「宴」を重ねます。
最も恐ろしいことは「わからない」ということ。
わからないことは恐ろしい。それゆえに――面白い。
次第に明らかになっていく村の実態、人々の心の裏側、神話の由来、巨大な陰謀……。
あるいは、房石の運命にからみつく、3人の女の物語。
『レイジングループ』は嘘つきの物語です。
いったい誰が嘘つきなのか、それとも誰も彼も嘘つきなのか。
休水の村民たちは、疑心の裏で何を守り、何を為そうとしているのか。
きっとほとんどのキャラクターの第一印象は、ゲームを終える頃には180度変わっていることでしょう。
嘘も秘密も、すべてを知った末路には。
――さて。
じゃあ、この記事には、どこに嘘が紛れていたのでしょう?
それは、プレイして再びこの記事に「をち戻った」時に明らかになりますよ。